まだ存在しない生活
最近、とても気に入った場所を見つけた。近くの家を少し調べただけで、そこに住む日々を想像しはじめていた。
「ここに住んだら、買い物はどこに行けばいいんだろう」
「駅から家まで歩いてどのくらいかかるんだろう」
「冬、窓から見える海はどんな色をしているんだろう」
まだ二回しか行ったことがないのに、まだ存在しない生活に、勝手に細部を足しはじめている。
私には家がない。今の日々でさえ、盗んできたもののような気がする。住まいは仮のもので、身分も仮のもので、未来も仮のものだ。ただ一時的に、ここにいることを許されているだけで、その許しがいつ急に終わるのか分からない。
それでも、あの家々の値段をつい調べてしまうし、毎日通ることになる坂道や階段を想像し、冬の海を想像してしまう。そして、もしこの想像することすら終わってしまったら、自分をどこに置けばいいのだろう、と考えずにはいられない。